We can go (2)

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 まず、ヤムチャが死んだ。

 助けも来ず、看取る人も無い中で、死んでいった。
 それらは突然現れて、一瞬にして彼の体に穴を開けた。それらからは、人造人間であるからなのか全くパワーが感じられないのだが、それらの方は彼らが気と呼ぶところのものを感知する性能を備えており、その最初の犠牲になったのがヤムチャだったのだ。異変に気付いた仲間たちが駆けつけた時には既に息絶えており、それらも消えた後だったため、この時は何が起こったのか分からないままだった。
 ベジータも、その気の乱れを感じ取ったはずだったが、何の反応も示さなかった。
 彼は半日後、それらが北の都付近で住民を嬲り殺しにしている映像がニュースで映し出されたとき、こいつか、と呟いただけだった。ブルマは彼にそんな期待はしていなかったので、彼を罵る事はしなかったが、ヤムチャの埋葬の準備をしながら、孫君が生きてたらねえ、と痛烈な皮肉を浴びせた。彼は、自分の方を見ようともせずに動き回る彼女を恐ろしい目で睨みつけていたが、やがて片頬を上げて笑い、切り返した。
「生きていたら、あいつをお前の男にしたか」
 彼女は自身の手の平の痛みで、自分が彼の頬を打った事に気付いた。涙で顔を濡らしながら肩で息する彼女に、彼は黙って背を向け、その場を離れた。

 そのすぐ後に、ピッコロが死んだ。
 それらにはドラゴンボールについての知識があったらしく、彼を彼と知って襲ってきたようだった。ピッコロは戦ったが、殺された。駆けつけてきた天津飯の側にいた餃子も、天津飯を守ろうとして死んだ。天津飯自身も重傷を負ったが、なぜかそれらは彼にとどめを刺すことをせず、その場を去った。
 クリリンと悟飯が死の淵にいる彼を見つけたときには、既にそれらは姿を消していた。ピッコロの呆気無い死と、一粒だけ残っていた仙豆によって生還した天津飯が語った戦況は、それらの絶望的な強さを生き残った彼らに知らしめた。

 しかし、希望はすっかり断たれた訳ではなかった。
 まだ、ベジータがいる。仲間だとは言えないが、この際は彼が敵でないことは彼らにとって心強かった。彼は確かに、彼らの中では最も経験豊かな戦士であり、策士であった。

 だが、そのベジータも負傷した。
 殺された二人のように奇襲を受けた訳ではなく、また怪我をした一人よりも遥かに高い戦闘力を持っていたので、それほど呆気無くやられたという訳でも、死にかかるまでいたぶられたという訳でもなかったが、傷や血に慣れているはずのブルマでも、気を失いそうになるほどのひどい状態で、彼は帰りついた。全身、朱に染まっていた。
 側にいたクリリンの話では―彼も何箇所か骨折していて、普通に話せるのが不思議なほどだったが―ベジータは、一緒に戦おうとした悟飯を恐ろしい声で恫喝したのだという。
 先に俺に殺されたいか。下がっていろ。
 それでも共に戦おうとする悟飯を本当に殺しそうになったので、クリリンが何とか引き取り、下がらせたのだという。まあそのお陰で悟飯だけは無傷で帰らせることが出来たんですけど。クリリンは複雑そうな表情を浮かべた。この、どう考えても集団行動向きではない男をもてあましているのだろう。だが今は、その男以上に頼れるものが無いのだ。

 血で色の変わってしまった戦闘服を取り去り、体を洗うと、見掛けの派手さほどには重傷ではないらしいと分かった。大きな傷がいくつかあるが、それほど深いものではないし、この男ならば放っておいても何日もしないうちに完治するだろうと思われた。この程度の傷で済んでいるということは、彼はそれらと対等に渡り合ったのだろう。彼女は少し希望の光を見たような気がしていた。
「いや、奴等は本気じゃなかった」
 だが手当てを済ませ、ソファに腰掛ける彼が発したその一言で、状況はそう甘くないことが分かった。そんな、でもお前は、と思わず発したクリリンの方は見ずに、彼は続けた。
「ああ、俺は全力に近かった。この程度で済んでいるのは、奴等が途中で引き上げたからだ」
 ガキだからな、玩具を失いたくないんだろうよ。舐められたもんだ。彼はそう言って、小さく乾いた笑いを漏らした。ああ、悟空が生きてたらなあ。宙の一点をみつめてじっと考え込んでいたベジータは、そう呟いて帰ってゆこうとするクリリンを呼びとめ、短く言葉を交わした。距離があったため内容を聞き取ることは出来なかったが、この珍しい光景は強く彼女の印象に残った。

 二人きりになると、涙が出てきた。
 知らず、気が張っていたのだろう。自力で戻ってきたのだし、そう酷い状態ではないと分かっていても、帰りついたときの彼の、あの阿修羅のような姿を目にしてしまったのだ。だが彼に見られて小馬鹿にされるのはまっぴらなので、彼女はダイニングに引っ込み、声を殺して泣いた。それでも漏れた嗚咽が、彼の耳に届いていなければいいがと思った。



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